パン屋さんと肉屋さんはストレスのもと?弱肉強食がドイツの真の姿?


ドイツと日本、2カ国の間で驚くほど違う、『えっ?そうなの?』の数々を一つ一つご紹介していきます


典型的なお店のレイアウト 横一列に置かれたショーウィンドウの中に商品が並べられている
典型的なお店のレイアウト 横一列に置かれたショーウィンドウの中に商品が並べられている

 日本人がドイツで暮らしたとき、一番面食らうのはパン屋さんと肉屋さんでの買い物ではないでしょうか?その大きな問題は「注文する順番」に原因があります。

 

 まず店舗は、上の写真のようにショーウィンドウが横一列に並んでいます。写真では赤い帽子をかぶった女性が店員さんで、彼女の前、ショーウィンドウの上に置かれているのが重量計で、彼女はお客さんの注文通り商品をピックアップし重量計へ載せ、その商品を選定するボタンを押すと、その重さでいくらか?が電光掲示板に表示されます。お客さんがその値段で納得し購入の意思を伝えると、彼女は商品を包み、会計となります。スーパーマーケットの肉屋さんの場合は、包まれた商品の外側にいくらであるか?のシールが貼られ、レジでそのシールに記載された金額に従い集計が行われるという仕組みになっています。

どのソーセージがどんな味なのか?初めはわからないので、最初は全部を試してみるしかありません。3回目くらいから、自信を持って注文できるようになります
どのソーセージがどんな味なのか?初めはわからないので、最初は全部を試してみるしかありません。3回目くらいから、自信を持って注文できるようになります

 問題は「注文の順番」です。ショーウィンドウが横一列に並んでいるということは、当然お客さんもショーウィンドウに張り付くような形で横一列に立つことになります。これが諸悪の根源です。

 なぜならドイツの店員さんたちは、お店に入って来た、あるいはショーウィンドウに並び始めた、お客さんの順番など一切気にしていないからです。それは彼らにとって、どうでもいいことなのです。彼らの目的は一にも二にも商品を売ることであり、それはでもけっして長く並んだ顧客から先に注文を取っていこうなどとは考えていません。

 繰り返します。彼らはショーウィンドウの反対側に立っているお客さんが全員はけて居なくなれば、それでいいのです。『誰も居なくなれば、販売の作業は終わった』という感じであり、順番についてはほとんど気にも留めていません。

 

 たまーに順番に気を遣う店員さんも居て「お次はどなたですか?Wer ist der nächste (Kunde)?)」と我々横一列に並んで立っているお客全員に聞いてくれる人も居るのですが、けっして本当に次の順番の人が注文を始めるのではなくて、これがまた信じられないことに「適当」です。たまたま店員の目の前に居た人が、片手を上げて注文を始めます。でも彼女/彼が本当に次の順番だったのか?というと、そんなことはなかった場合がほとんどです。それはまるで、横に並んだ全員が『次は自分だ』と思っているかのようです。まったくそうは解釈することのできない我々日本人は、何度も『えっ?えっ?』と驚くばかりで、ずるずると順番が後回しにされていきます。

肉屋さんにもパン屋さんにも必ず置いてある「何でもスライサー(Allesschneider)」。お好みの厚さにスライスする際に使われる
肉屋さんにもパン屋さんにも必ず置いてある「何でもスライサー(Allesschneider)」。お好みの厚さにスライスする際に使われる

 1998年に私はドイツへ行きましたが、この肉屋さんとパン屋さんの順番待ちについては、かなりてこずりました。必ずしも、早く並んだ人から注文できるというわけではないからです。まさに「弱肉強食」の世界。順番を勝ち取った人が、その場の正義となります。

 

 店員さんが『きっと、この人の順番だろう』と思い「何にしますか?(Was möchten Sie (haben)?)」と問いかけられた人が注文できます。ひどい場合は、たぶんこのお客さんだろうではなく、単に直前のお客さんの包装が終わり手渡し、視線が複数の顧客たちに振られた際に、単純に目があった人が次に注文できる権利を勝ち取ってしまいます。これが、私たち日本人にとっては、まったく理解できないものです。私よりも後にお店に入ってきたことは明らかなのに(当人も、おそらくその認識を持っている)、のうのうと注文します。

 

 一度だけやっぱりどうしても許せず頭に来たので、パン屋さんの順番で私を飛ばして注文したお婆さんに向かって、「違うよ!私の番ですよ!」と言ったことがあります。彼女は順番を飛ばしたことはわかってやったことのようで、私と目を合わせることができず、また何も私へ言い返してきませんでした。しかしながら、とてつもなく不服な顔をしていたのを、良く覚えています。そのときのまるで苦虫を噛み潰したような表情は、あれ以来忘れられません。

 ちなみに注文はそのまま通ってしまい、彼女の方が私より先に商品をもらい、さっさとお店から去って行きました。

パン屋さんの中には、ケーキ類も一緒に陳列しているお店もあります
パン屋さんの中には、ケーキ類も一緒に陳列しているお店もあります

 私の専門のサッカーで表現するならば、この店員さんの働き方はやはり、マンツーマンディフェンスに向いたドイツ人の国民気質を如実に表しているように感じます。それとも、一人の選手にずっと付いていくわけではないので、これはゾーンディフェンスの素質でしょうか?一定のゾーンで(ショーウィンドウの前で)入れ替わり立ち替わり順番を待つ違うお客さんたちを相手に、すべてに対処して粘り強く販売を行っています。

 

 肉屋さんでの思い出としては、ハムの盛り合わせ ランチョンミート(Aufschnitt)を良く頼んでいました。3種類のハムが一緒になっているので、名前のわからないハムを個々に注文する必要がないため、いつも楽をして過ごしていました。ところがある日、ショーウィンドウの中を見ることなくいつも通り「ハムの盛り合わせをください(Aufschnitt, bitte!)」と注文すると、丁度そのとき盛り合わせになったものが品切れで「どれにしますか?(Welche möchten Sie denn?)」と返されてしまい、個々のハムの名前を知らなかった私にはもう、原始的にショーウィンドウ越しに指差す手立てしか残されていませんでした。ただハムは物理的にショーウィンドウから遠く(一番上の写真を参照)、指を差しても店員さんもどれか?よくわからず、正解にたどり着くまでそこから結構困難を極めたことを良く覚えています。「これ?(Das?)」「いや、その右のもの(Nein, rechts)」、「じゃぁ、これ?(Das dann?)」「いや、その左のやつ(Nein, links)」……………。

 

 もう一つは、ハムを注文して『あー、やれやれ。これで買えた』と思った瞬間、店員さんから「何ミリ(メートル)の厚さ?(Wie viele mm?)」と思ってもみなかった追加の質問が投げかけられ、『えっ?いつも買ってた奴って、一体何ミリに切ってあったんだ?』と毎朝の自分の朝食に思いを馳せたものの、『1 mmかな?2 mmかな?』となかなか確信は持てず、思案につぐ思案の嵐、これまた返答までに時間を要してしまいました。

 

 横並びに並んだ個人主義のお客さんたちの集合体の中で、『じゃぁどうやったら、自分の順番に、注文へと行き着くことができるのだろう?』と、ここまで読まれて読者の方たちは思われているかも知れません。

 店員さんと目が合った瞬間、(これ見よがしに)ウィンクをしてみるというのはどうでしょう?こればっかりは私も一度も試したことがないので、成功するかどうか?保証は致しません。どなたか試されたら、この下のコメント欄へ書き込んでください。朗報をお待ちしてまーす。

このパンを買うときブレーメン 州では「Brotchen(ブロートヒェン)」、バイエルン州では「Semmel(ゼメル)」と言って注文しないと、店員さんに通じません
このパンを買うときブレーメン 州では「Brotchen(ブロートヒェン)」、バイエルン州では「Semmel(ゼメル)」と言って注文しないと、店員さんに通じません