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DFB指導者ライセンスの更新講習


ドイツサッカー協会の指針「ドイツの長所 2.0」


 前回のブログに続き今回もまた、少し前の話をさせてください。昨年9月にドイツサッカー協会主催の指導者ライセンスの更新講習へ参加したときの話になります。

 私が持っているライセンスは「DFB・エリート・ユース・ライセンス」で、ライセンスシステムでは上から3番目の資格(全部で5つ存在)であり、これを持っているとユースにおいては、U19とU17の男子チームの2部リーグまで、U17女子チームではブンデスリーガまで監督を務めることができます。

 このライセンスは19歳以下を対象としていて、上記のほかに全国に366箇所あるトレーニングセンター、ブンデスリーガクラブに設置されているタレント育成センター(54箇所)、さらに地域ごとに才能ある選手を集めたDFBエリート・スクール(35箇所)で指導者として活動することもできます。

 一方成人チームにおいては、男子なら5部リーグまで、女子なら3部リーグまで指揮を執ることができます。

 

 何れにしても資格を保持するためには、3年の内に1度更新講習へ参加することが義務付けられていて、講習会へ参加したことにより、資格の延長手続きができるシステムになっています。ということで今回、4年ぶり(2015年にドイツから帰国したため、前回の更新講習は2016年末の有効期限を待たずに1年早目に受講した)となる更新講習を、ドイツ中部にあるシュポルトシューレ・カイザーラウで受講しました。前回の更新講習(2015年7月)はライセンスシステムが見直されてから「DFB・エリート・ユース・ライセンス」として初めての更新講習だったため、総勢160名という大所帯での講習会だったが、今回も100名弱という割と大きな講習会となっていました。

 

 2019年9月13日〜15日、指導実践4回と講義7回が実質ほぼ2日間の中に詰め込まれ、ゲスト講師としてブンデスリーガのアウクスブルクで監督を務めていたこともあるマヌエル・バウム氏も招聘され、「ゲーゲンプレッシング」について講義と実技指導を担当してくれました。

 参加者は16人くらいずつの6つのグループに分けられましたが、たまたま私のグループ3には元プロ選手であるエリック・マイヤー氏(下記の写真を参照)も一緒でした。彼は元オランダ代表選手でもありますが、レヴァークーゼン、ハンブルク、アーヘンとドイツのクラブも渡り歩いていて、リヴァープールでのプレー経験もあります。いきなり「こんにちは」と笑顔で挨拶してきた彼は、ハンブルガーSVで高原選手と一緒だったそうです。

 現在彼は、ドイツのペイTV「Sky」で戦術評論を担当しています。チャンピオンリーグの試合の放送で、ベッケンバウアー氏の前半の感想が流れた後、戦術ボードや動画を使って前半の攻防のポイントや後半における展望などをわかりやすく説明し、視聴者から好評を得ています。

 さて、講習会の内容で『なるほど!』と思ったことは、ドイツサッカー協会が示している指針「ドイツの長所 2.0」に従い、すべてが動いているということでした。「ドイツの長所 2.0」は2016年にドイツサッカー協会が発表したもので、現在FCバイエルン・ミュンヘンで指揮を執るハンズィ・フリック氏が当時協会スポーツディレクターを務めていた際にまとめたものです。

 試合のビジョンとして「包括的なガイドライン」、「守備のガイドライン」、「攻撃のガイドライン」があり、それぞれ箇条書きになった項目は短い言葉でわかりやすく表現されています。

プレーコンセプトの全体を表す「包括的なガイドライン」(独日翻訳:坂本健二)

©️Deutscher Fußball-Bund

「包括的なガイドライン」の下に位置する二つのうちの一つ、「守備のガイドライン」(独日翻訳:坂本健二)

©️Deutscher Fußball-Bund

「包括的なガイドライン」の下に位置するもう一つ、「守備のガイドライン」(独日翻訳:坂本健二)

©️Deutscher Fußball-Bund


何事も指針に沿って、考える


「テーマ2」が割り振られた、我が「グループ3」の面々(元ハンブルガーSVでFWだったエリック・マイヤー氏は、後列左から4番目)

 今回の更新講習ではグループ3の16名がさらに二つに分けられ、それぞれが違ったテーマを与えられ、講演と実技指導を行なった(講演での発表の模様は下記の動画を参照、撮影者:エリック・マイヤー氏)。

 テーマは、下記の二つでした。

 

テーマ1:試合と同様な状況下におけるシュート練習

テーマ2:ペナルティエリア内での守備 ゾーンディフェンスからマンツーマンディフェンスへの移行

 

 私のグループは、「テーマ2」をもらいました。我々のテーマはペナルティエリア内での守備、これはつまり「守備のガイドライン」の4番「自分のゴールへ近づけば近づくほど、相手にも近づく!」ことを意味し、簡単に表現すると「ペナルティエリアまではゾーンディフェンスし、エリアに入ったらマンツーマンディフェンスへ移行する」という解釈となります。そして、最も大事なのはこの移行がスムーズに、そして危険でマークすべき相手選手へ効果的なポジショニングで付くことができたか?が問題となります。

 また、3番の「ゾーンディフェンスだが、相手を視野に入れながら守備をする!」も関わってくるテーマでした。

 

 「テーマ1」にしても「テーマ2」にして、そして会議室における「口述発表」においても、グラウンドにおける「指導実践」においても、基本となるコンセプトは前出の「ドイツの長所 2.0」に書かれている通り。例えば、グループに分かれてテーマに沿ってまとめて行く際、芝の上で行う練習メニューを誰かが思い付いた案を説明すると、すぐに項目ごとにチェックし、コンセプトに合致しているかどうか?全員で点検しました。講演の内容も然りで、必ずコンセプトへ立ち返り、チェックしました。

 そして、講演の発表後、インストラクターもコンセプトと絡めて評価を行い、どこがどう適合していたのか?コンセプトと比較すると何か足りないものがあったか?など、補足説明をしてくれました。グラウンドで行われた実技指導においても、同様でした。

 

 ここで感じたのは、参加者全員がインストラクターと共に同じ原点を共有していることが、とても単純明快でありスッキリしていて清々しいということです。「ドイツの長所 2.0」はドイツサッカー協会が編集する雑誌「fussball training2016年8月号」に掲載されていて、私自身は更新講習へ臨む前から知っていましたが、まさかこんなにもサッカー指導の背骨として頻繁に使われるものであるとまでは認識できていませんでした。

 

 日本でもこのようなコンセプトが立てられ、日本代表のみならず、Jリーグクラブのチームだけでなく、巷の町クラブから皆同じコンセプトで育成し、日本サッカー界全体がより良いサッカーを目指せるようになるといいと願ってやみません。

©️Erik Meijer

 

追伸

 今回の講習では、ドイツサッカー協会が更新講習専用のサイトを別個に用意していて、テーマに沿った報告書の提出もそこへアップロードすることで行われ、また講習会開始までにこなしておかなければならない宿題もそのサイトへ書き込むこととなっており、私のみならず参加者(少なくとも私と同じグループだった人達)は皆、いろいろとホームページにおける操作方法がわからず、技術的なことでかなり苦労しました。

 

 ちなみに宿題は、U17ドイツ代表の試合の動画を見て、攻撃と守備の場面を指針である「ドイツの長所 2.0」と比較し、良いところや悪いところなどを書き込むというものでした。動画を止めて、映像へ丸(楕円も含む)や四角で地域を指し示したり、ボールや人の動きとして矢印を入れて、説明を加えました。

 これは私自身としては面白かったですが、動画は最後の方は指摘が入り過ぎていて、果たしてインストラクターがそれぞれを別個に見て、それぞれの参加者を区別して判定できるものか?疑問でした。


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コメント: 2
  • #1

    山本信義 (火曜日, 21 7月 2020 23:34)

    「日本の長所」がコンセプト化されると面白いです。困った時に立ち返る場所があるのも大事ですね。また、代表選手が良く言う「自分達(の長所)のサッカー」をサポーターも共有できれば、サッカー文化の広がりにも繋がると思いました。

  • #2

    店主:坂本 健二 (水曜日, 22 7月 2020 09:25)

    山本さん、コメントをありがとうございました。

     本当にそうですね、「日本の長所」必要ですね。今回ブログに書かせてもらった更新講習に参加してみて、つくづく背骨が通っていることの大切さと、それ故の便利さ(明快さ)を強く感じました。まとめるのは大変な作業だと思いますが、世界に追いつくためには必要なものだと考えます。
     「ドイツの長所 2.0」の「2.0」は発表後一度、改訂を行なっているためバージョンが付記されています。間違いを改めることを好まず最初から完璧なものを作ろうとする日本人には難しいかも知れませんが、まずはまとめて普及に努めて、何か不都合があったり改善点が見つかったら、改訂版を作ればいいと思います。
     まさに代表選手たちが口にしている「自分達のサッカー」をまとめればいいのだと思います。ただし、選手目線の意見だけでなく、指導者からの意見も加えた方がいいと思います。
     長谷部選手がやがて引退し、指導者資格をドイツで取得して指導者の道を歩み始めたら、必ずや「日本の長所」を作ってくれることと信じています。ただ、それまでにはまだ時間があります。もっと早い時期にまとめられることを願っています。
     サポーター、そして巷の指導者たちにも、その国のサッカーがどの方向へ向いているのか?を共有することは大切ですね。それにより育成のベクトルも揃うはずですから。